ジョギングの際よく通る小さな商店街に、小さな魚屋があった。オレンジ色のテントが目立つ店だったが、マグロと他一品の刺身が数皿並び、焼き魚も一種類程度。土曜の夕方に何度かマグロを買ったことがある。良い切り身で値段も手ごろ、週末のつまみに重宝していた。だが失礼ながら繁盛店には見えなかった。
店主も奥さんも、「築地で良い魚を仕入れていたところが豊洲移転を機にもうやめるっていうから、うちもそろそろ畳もうかと」なんて言っていた。だが実際には移転後もしばらく続いていた。数軒向こうの精肉店も店を閉めていた。売り上げも限られるだろうし、そもそも近所に大きなスーパーもある。小さな商店街などひとたまりもない。
ある日、ジョギングコースを変えたこともあったがその店の前を通った時に気が付いた。店ごと無くなり更地になっていたのだ。薄情なもので「ここは何があったんだっけ?」としばらく思い出せなかった。(それは自分の確実な記憶力低下でもある)
あー、あのご夫婦はどうしているのだろう。ついに店も畳んだか。
ところがつい先日、立派な住宅が建っていた。意外と奥行きがあったのか、駐車スペースは二台分、そしてそこには大型車が二台停まっていた。細々と(そう見えた)やっていた鮮魚店でずっと貯金していたのか、或いは魚屋は世を忍ぶ仮の姿だったのか。いずれにしても店舗の見栄えだけで判断していたのは愚かなことだった。心配無用。
それ以来、その道を通る時は「切り身御殿」と勝手につぶやきながら歩いている。

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